撮影秘話

小川町セレナーデメインロケ地「スナック小夜子」が決まるまで

 映画「小川町セレナーデ」のメインロケセットである『スナック小夜子』を探すのには本当に苦労しました。1階は、スナック。2階はこの親子の住居スペース。
スナックは母親と従業員1人でなんとか切り盛りしているという設定なので、そんなに広くはない。
しかし見せ場であるダンスシーンが出来る場所でなくてはならない。ダンスをするということはある程度の広さが必要。監督が求めるメインロケセットはかなりハードルが高かったのです。

この物語の設定の半分以上をしめているので、本来ならば外観はロケーション(現存のスナックもしくは空き物件の外観のみスナックとして飾り込む)、中身は壁をつけたり外したり、いかようにも対応できるスタジオでセットを組むという方式をとるのですが、予算の都合上それはどうしてもできませんでした。

川崎市のご協力のもとスタートしているプロジェクトなので、なんとかして川崎市内でみつけたかったので、ロケ場所を探す担当である制作部は、先ず監督にスナックのイメージを聞き、川崎市内の不動産屋さんに駆け込みました。 と同時に1階はスナック、その2階は住居スペースということなので、2階建て以上の一軒家もしくはビルを、空き物件であろうがなかろうが、自分の足で探しまわることにしました。

ただこの物語の設定は、都心から車や電車で2時間くらいの架空の町ということになってます(劇中で具体的には出てきませんが)ので、がむしゃらに走り回りつつも、その土地のまわりの環境なども考えロケハンしました。商店街、もしくは住宅地などは撮影が深夜に及ぶこともあるため近隣の方々にご迷惑がかかるためできるだけさけるようにしました。

道路などの拡幅工事でまわりは立ち退き、そこだけぽつんと残っているような場所が理想だったのです。
毎日テナント募集の看板に目を光らせながらも、空き家がないか探しまわりました。

しかしそんな気の利いた場所はなかなかみつかりませんので時には、スタジオセットというか、もともとスナックだった場所を借上げ、スタジオ運営している会社にも問い合わせました。
スタジオとして貸しているので、利点としてはスナックとしての土台があるため最低限の装飾が施されている。
例えばテーブル、椅子、カラオケセットなどが最初から設置されているため、その分の予算が削れるのです。

いくつか候補を挙げて監督に見せましたが、なかなか監督OKは得られませんでした。途中から、演出部も加わり一緒に頭を抱えながら、不動屋さんをまわり、平面図をみせてもらい一軒一軒見に行きました。
ここだったらなんとかいけるのではないかという物件には、監督もご同行いただきました。がしかし監督としても妥協したくなかったのでしょう。とにかくこの映画は『スナック小夜子』がすべてだと言っていたくらい『スナック小夜子』への思い入れ、こだわりには計り知れないものがありましたので、なかなか首をたてに振りません。『スナック小夜子』にほとんどの予算をつぎ込んでもいいというくらいでした。  

監督の思いになんとか答えたい。
しかし物件はなかなか見つからない。
そんな日々が続きました。

もうこれ以上川崎でまわるところはない、まわりつくしたというくらいになった頃、制作部からたまたま車でまわっていて、見つけた物件があるとの報告がありました 。

空き家で2階建て、中は少々狭いが、内装工事で壁を取っ払ったりすればなんとかいけるかも。中身のテーブル、椅子などは入れなくてはいけないが、たまたま近くのリサイクルショップにスナックで使用できそうなテーブル、椅子がある。

そこで借りれば予算的にもなんとかなるのでは。即刻その空き物件のオーナーを調べて、問い合わせをしました。
貸してもらえそうだ。監督に写真をみせたら、即「行ってみよう」ということになりました。
確かに中身は狭いかもしれないが、この物語の趣旨にあっている。1階から2階へ上がる階段の位置。外観の壁の色、寂れ方、まわりの環境などなど、いままでみた中で一番いいという答えが監督から返ってきました。  
とにもかくにもスタッフに集合してもらい現場で打ち合せが始まりました。

各部署プロの目でみてそこで何ができるか、この映画をどう撮っていこうかを話し合いました。
カメラ位置は、外から撮る場合は窓を取り外し式にしたり、カウンターテーブルにキャスターをつけて移動式にしたり、お酒がおいてある棚も取り外し式にというアイデアが美術部からでました。
ダンスもこの狭い空間をいかしてできるようなものになるように振付の先生も呼んで話し合いました。ようやくメインのロケ場所が決まったのです。狭い空間を最大限生かして素晴らしいロケセットが出来上がりました。  
各部署がそれぞれプロとしてのアイデアを出し合いながら完成していくのが映画です。
『スナック小夜子』は各部署の努力が形となったロケセットです。
最後にこの素晴らしいロケセットを見つけてくれた制作部は、残念ながらスケジュールの都合で撮影現場に立ち会うことができませんでしたが、改めて御礼を申し上げます。

ありがとうございます。

坂口慎一郎
(株式会社パイプライン)